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大人と子供の境はなんだろう。
責任やら能力やら、やっぱりそう言うものなんだろうか。

雲が早い。

そう言えば午後から雨になると天気予報が言っていた。

 

 

 

 

幼馴染だった女の子が、大学へ通うために一人暮らしを始めた。
引越の荷物はそれほど多くはなくて、知り合いに手配してもらった小さなトラックの荷台も半分も埋めることはなかった。
白いトラックの前に立って、彼女は別れ際、私に笑ってこう言った。

「またね」

軽く手を振って、トラックに乗り込んでいく。
晴れ晴れとした笑顔だった。

 

「奈津、元気ないね」

学校からの帰り道、友達に呼び止められた。
中学時代の友達で、今もたまに会ったりしている。

「知ってる?お向かいのノリちゃん、一人暮らし始めたの」
「あぁ、そうなんだー」

友達は私の言葉に少し驚いたようにしていたが、すぐいつもの調子に戻って、何でもない風に言った。
大学生なんだから、一人暮らしなんて珍しくないよ。
彼女と同じように、当たり前のように。

 

雲が早い。

「今日雨ふるってねー」
「夜からでしょ?まだ平気だよ。奈津って心配性だよね」

私は癖でいつも鞄の中に折りたたみ傘を入れていた。
それは彼女も同じで、二人で出かけるたび、突然の雨が降るたび、おたがいに笑いあった。
備えあれば憂いなし。
したり顔で、彼女が言う。
私も真似して、傘をくるくる回して、言う。

備えあれば、憂いなし。

 

「奈津、今度中学の時のみんなと花火すんの。来る?」
「どこで?」
「裏山」
「あー、神社の?あそこ止めといた方がいいよ。前やったら住職に怒鳴られた」
「マジで?」

驚いたようながっかりしたような顔で、友達が足を止める。
それからさっそく携帯を取り出して、今の情報を流し始めた。

「誰と行ったのー?」

携帯画面を睨みながら、言葉半分で聞いてくる。

「ノリちゃん。去年の夏の終わり」
「へぇ、余裕だねー」
「何が?」
「だって去年の夏って言ったら、ノリちゃん受験じゃん?」
「ノリちゃん頭いいじゃん」
「そっか」

それだけ言って、携帯をパタンと閉じる。
改めて私を見上げて、友達は苦笑する。

「つか、奈津とノリちゃんって、マジ仲良しだったんだね」

過去形で、笑って言った。

「・・・・うん。仲良かったよ」

私も過去形で、答えた。

 

一足先に大人になった彼女は、あれっきり私に会いに来なくなった。
トラックの前に立って、晴れ晴れとした顔で、またね、と私に言った。
別れ際、雨が降りそうな空を見上げて、鞄の中に常備されている折り畳み傘を確認していた。

 


雲が早い。

そう言えば午後から雨になると天気予報が言っていた。

 


引越先の彼女は、まだ鞄に傘を入れているだろうか。
私に言ったように、また雨雲を見上げて、備えあれば憂いなし、と満足そうな顔をしているだろうか。
夏になれば花火をして、叱られてがっかりして、それでも楽しそうに、笑っているだろうか。

大人と子供の境はなんだろう。
責任やら能力やら、やっぱりそう言うものなんだろうか。


彼女は大人だったから、だから寂しいと思わないんだろうか。
私がまだ子供だから、だからいつも彼女の事ばかり思い出すんだろうか。

 


雲が早い。

そう言えば午後から雨になると天気予報が言っていた。

 


私は何気なく、鞄の奥にしまわれた折りたたみ傘を確認していた。


<了>