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色とりどりの堤燈に、香ばしい煙を上げる出店の列。
お囃子が甲高く響き、そこに子供と大人の笑い声が入り混じる。

藤和(とうわ)が行きたいといった、夏祭り。
にもかかわらず、藤和は人の波に押されながら、これは夏祭りじゃない、とまた我侭を言い出した。


 

 


夏祭り
藤和と紅音・1

 

 

長い髪を苦労して結い上げて、着慣れない浴衣に袖を通した。
藤和は私の制服姿が好きだというので、わざといつもと違う格好をしてみた。

「紅音(あかね)ちゃん、おかしい。これは夏祭りじゃないよ、そんな気がします」

藤和はそんな私の浴衣姿など全くスルーして、眉間にしわを寄せ、また訳のわからないことを言っている。
これが夏祭りで無いとしたら、一体なんだ。
あんたの中の夏祭りって、一体どういうもんなんだ。

「じゃぁ、帰りますか?藤和さん」
「今来たとこなのに?」
「いや、夏祭りじゃないんでしょ?これ」
「うん、夏祭りではないね」

噛みあわない会話にうんざりする私に、いたって真剣な顔で藤和が言う。
いい加減、この人の言動にも慣れた方が良いのだろうけど。
いかんせん、藤和の言動、行動は、私の想像の範疇を越えている。

「じゃぁなんでしょう?」
「喧騒」

喧騒ってなんだよ。
少し間を空けて呟いた藤和の回答に、声にならないツッコミを入れて、私はそのまま歩き始めた。
はき慣れていない下駄が、カラコロと下手くそな音を立てる。

「紅音ちゃん、あれ何?」

後から追いかけてきた藤和が、極自然な動作で私の手を取った。
私も自然と手を振り払って、藤和の指さした方をむく。

「りんごアメ。知らないの?」
「食べた事無い」

りんごアメから振り払われた手に視線を移して藤和が言う。

「やめときな。紅い着色料が服につくと悲惨だから。取れないから」

私はわざと腕を組んで、藤和の次の行動を阻止する。

「何でそんな意地悪するの?」

思ったとおり、藤和は子供みたいな不機嫌顔で、私に抗議した。

「こんな人前で、いい年した男女が手をつなぐなんて恥ずかしいと思いませんか?私は思いますよ」
「・・・・紅音ちゃんって性格悪い」

ボソリと言って、頬を膨らます。
まるっきり子供の反応だ。

 


こうして、いつも藤和は天性の我侭で私を振り回す。
普通に考えれば解るだろう、非常識さも、藤和にとっては当たり前。
自分の好きな事が、好きだし。
したいと思う。

 

でもそれは、社会の中の、ほんのひと欠片でしかない私たちに、全てが全て、許されるものではない。

 


「・・・・・あれ?」

藤和が喧騒、と表現した人ごみの中で、私は思わず声をあげていた。
今までそこに立っていた、金髪のやたら目立つ日本人の姿が消えている。
私は胸の前で組んでいた腕を解き、さっき藤和が触れてきた右掌を眺めた。
堤燈の光の染められて、いつもより血色が良く見える掌は、何故だか外気に冷えていた。

 


あぁ、そうか。

藤和がつないできたのは、はぐれないため、だけではなくて。
この広い世界に、たった一人で、私が凍えないため。

 


我侭なあの人の、天性のカンはすごい。

 


「紅音ちゃん」

人ごみの波に流されるようにして藤和を探していた私の名前を、聞きなれた声が呼んだ。
その日は珍しく、藤和が私を見つけてくれた。
本当に珍しい。
いつもはぐれた藤和を、先に見つけるのは私なのに。

「よく見つけたね」
「今日かわいいから、目立つよ」

私の浴衣をさして、藤和がにっこり笑う。
浴衣なんて、他にもたくさん居るだろうに。
私が顔をゆがめて黙り込んだのを、楽しそうに見下ろして、藤和は私に右手を差し出した。

「ハイ、迷子になるから、ちゃんと手、つないでて」
「や、迷子になったの、藤和だから」

観念して、藤和の手に自分の手を重ねる。

「あのね、あっちで狐がいたよ。着物着て踊ってた。なんかの催し?」
「聞こうよ、人の話」

つないだ手をさっそく引っ張って、藤和は神社の方角を指差した。
呆れた声で、溜息をついた私を振り向いて、藤和が嬉しそうに笑う。

「聞いてるよ、紅音ちゃんの声は、好きだから」

 


こうやって、いつも藤和は天性の我侭で私を振り回す。
普通に考えれば解るだろう、非常識さも、藤和にとっては当たり前。
自分の好きな事が、好きだし。
したいと思う。

 


あぁ、私の中の常識なんて、この人にはまるで関係ないんだろう。

 


堤燈の明かりに染められた、喧騒の中を二人で歩く。
お囃子の音に、心がはしゃいだ。


〈了〉