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生徒会の役員選挙が行われて、二週間。
当選の知らせを受けた職員室で、藤和(とうわ)に出会った。

 

 

 

宣言
藤和と紅音・0

 

 

 

背の高い彼は私と視線を合わすために、少し身をかがめて笑った。
私はそんな彼の仕草に少しむっとして、少しでも背が高く見えるように、胸をはった。

「こんにちわ」

小さな子供をあやすような喋り方も、そんな私の態度に苦笑する顔も、全てが癇に障った。
出会いは、一方的に、最低だった。

 

生徒会役員に立候補したのに、たいした理由はなかった。
ただ、ぼんやりと、進学に有利になるかもしれない、という打算があった。
しかし、そんな自分勝手な考えを、出会って間もない人間に白状する必要はない。
生徒会室で行われた自己紹介の場で、私は立候補の理由として、選挙に出た際に演説した内容を、簡単にして繰り返した。
今年、私と一緒に当選した同じ学年の男子生徒が、感心した表情で私を見上げている。
前の席にバラバラと場所を確保している先輩たちも、彼と同じような反応だった。
論文は、昔から得意だ。
欠点であろうとなんであろうと、誤魔化して上手くまとめる自信がある。
日本語は、表現にし様によって、さまざまに印象を変化させる。
そこが好きだ。

「すごいね、中野さん」

一通り自己紹介を終えて席につくと、隣から同級生が小声で言った。
私はにっこり明るい笑顔を浮かべて、そんなことないよ、と無難な返事をする。

そんな私たちを見て、窓際に居た生徒会長、と呼ばれていた男子生徒が、くすりと笑ったのがわかった。
私は思わず彼を睨みつけてしまった。
職員室で顔をあわせた時も、そう。
反射的に思ったのだ。

この人は、私を馬鹿にしている。

「なんか、教科書に載ってそう。立派な模範解答だね、中野さん」

奇麗な声で、ほとんど初対面の私に対し、彼はそう言ったのだ。

 

咲き遅れた桜が、ちらほらと白い花びらを散らしている。
屋上のフェンスに顔を近づけて、校庭を見下ろしていたら、後から声をかけられた。
その声に、一旦顔が歪む。
私は振り向く前に、顔の筋肉を笑顔に修正してから、背後の生徒会長に向き直った。

「はい、なんでしょう?」
「ここ、立ち入り禁止だよ」

笑顔の私に、同じく笑顔で、彼は言う。
私は思わず崩れそうになった表情を、力いっぱい引き止めて、首を傾げて見せた。

「日比谷会長は、そんなことを言うためにわざわざ、ご自分も立ち入り禁止の屋上に来られたわけですか?」
「中野さんって、笑うと怖いね」

奇麗な笑顔のまま、さらりと毒づく。
今度こそ私の笑顔は、ガラガラと音を立てて崩れ去った。

「失礼します。二度とここは来ませんので」

高い位置にある彼の目を睨みつけ、足早にその場を去ろうとした私の腕を、彼が掴んだ。
色の白い指に、ギョッとする。
振り向いた先には、彼の日本人離れした奇麗な顔が、思ったより近くにあった。

「・・・なっ・・・」

思わず、頬が熱くなる。
混乱と羞恥で、私は乱暴にその手を振り払おうとした。
しかし予想外に彼の力は強く、思いどおりに行かない。

「・・・・何ですか?」

平静を装って、低い声で尋ねる。
生徒会長は、じっと私を眺めた後、まるで放り投げるように私の腕を放した。
少しよろけて、彼を見上げた。
そこにいつもの笑顔はなく、彼は何の感情も無い目で、私を見下ろしている。

途端に、何かが怖くなった。
私は居住まいを正し、胸をはり、正面から彼を睨みつけた。
ここで、怯えた顔を見せるわけにはいかない、と本能的に思った。

「そっちの方が、自然だね」

生徒会長が、静かな声を出した。
それは何故か、笑顔の時よりずっと、温度が高い、人間の声だった。

「・・・・自然?」

訳がわからず、彼の言葉を繰り返す。
私の言葉を質問と取ったのか、彼は説明するような口調になる。

「笑ってるときより、睨んでくる顔の方が自然に見えるよ。君、無理して笑顔、作ってるよね」

見透かすような、薄い色の両目が、癇に障った。
自分よりずっと上にある彼の視線にも、彼の言動にも、彼の声すら全て、癇に障った。

「そんなの、日比谷会長だって。・・・・笑顔、うそ臭いですよ」

私の言葉に、生徒会長は少し驚いたような顔をした。
その反応は、怒らせると思っていた私には予想外のもので、なぜかひどく動揺した。

その表情が、あまりにも。
あまりにも無邪気な子供のようだったから。

「・・・・うん、すごい。観察眼あるね」
「え?」
「あのね、俺と君って似てると思うんだ。笑顔うそ臭い所とか、周りから過大評価されてる所とか」
「過大評価・・・・」

彼の言葉に、顔が引きつるのが解った。
私の指摘をあっさり認めた事にも驚いたが、自分と私の、言うなれば欠点を、同じだという言動にも驚いた。
ぽかんと彼を眺めていた私に、彼はにっこりと笑った。
その笑顔は、いたずらを思いついた子供のように無邪気で、自然な笑顔だった。

そしてその時、私は不覚にも、彼の笑顔が可愛らしいと思ってしまったのだ。

「今キスしたら怒る?」

とんでもない提案に、頭が真っ白になって、なんと言って拒否したのか覚えていない。

「じゃあ、今はいいや」
「今はって・・・!これからも駄目ですよ!!」

その何かを含んだ言い方に、咄嗟に私は声を上げていた。
それから彼は、何故だか自信満々に、こう言ったのだ。

「言っただろ、君と俺は似てるって。だからいずれ、君も俺と同じように想う日がくるよ」

絶対に。
無邪気な子供の顔で、明るく宣言した藤和。

 

 

そして、その宣言が現実になる日は、意外に早く訪れる。

 

<了>