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遅咲きの桜の舞う、4月。
一方的に好きだといわれて付き合い始めた彼女に、いきなり振られた。
僕の奇想天外な行動に、ついて行けなくなったのだと言う。

あぁ、ちょっと待ってくれるかな。
今この現状に、ついて行けなくなってるのは、僕なんだけど。

泣きながら走り去る彼女の姿を、ぽかんとしたまま眺めていた僕は、頭の片隅で、これは追いかけないといけないのかな、とか嫌に冷めた事を考えていた。

 

 


宣言、その前
藤和と紅音・00

 

 

 

女の子という生物は、本当に良く解らない。
平然と自分の弱さをひけらかして、同情心を引き、愛されようと必死になる。
しかしそんな「女の子らしい可愛らしさ」、というものは、彼女たちの求めている、か弱い女の子を守ってあげたくなる、「男らしい優しさ」の稀薄な僕には、どうやら通用しないらしい。
桜並木の真ん中で、がっかりしてしゃがみこむ。
ちらちらと舞い落ちる花びらが、何だか僕を慰めているようで、おかしかった。

そう言えば初めから、僕は彼女を好きなわけではなかったんだな。

振られた事に関して、あまり傷ついていない自分に気付いて、思った。
彼女に好きといわれて、かわいいな、とは思ったが、別に好きでたまらない、と感じた事は一度もなかった。

そうだ。
今まで生きてきた中で、僕は誰かに恋をした事なんて、あっただろうか。

何故だかいつも、周りからは過大評価されて、好かれていたけれど。
僕自身が好んで何かを始めたり、欲しがったりした事はあまりない。

きっと彼女も、想像していた理想の僕と、現実に付き合ってみた僕とのギャップに、付いていけなくなって、別れるという選択をしたんだろう。

だいたいいつもそうだった。
他人の中での僕は、奇麗で正しくて優しくて素敵で、理想どおりで。
この髪を金に染めた時だって、校則違反だって知っているのに、誰も僕を叱らなかった。
彼女たちに中にある理想の僕が、正しい人間だから、僕がやってる事は、みんな正しくなくてはならない。

だから、違反をしても怒らない。
それどころか、似合うね、何ていう教師だって居る。

欲求不満は、旦那と解消してろよ、くソ女。

 

 


「日比谷会長、邪魔なんですけど」

 

だんだんイライラしだして、溜息をついた僕に、冷たい声が降ってきた。
僕は少し驚いて、上を見て、一瞬固まった後、ものすごく驚いた。

「・・・・・中野さん、危ないよ」

そこには今年、生徒会に入ってきた一年生の姿があった。
僕が驚いたのは、彼女がそこにいたからではなくて、彼女の立っていた場所に驚いたのだ。
彼女は桜の枝の上にいた。
高校生にもなって、木登りをしていたのだ。
しかもスカートで。

「引っかかってたんです、コレ。取ろうとしたら会長たちが来て・・・立ち聞きするつもりはなかったんですよ」

僕の視線に気付いてか、スカートの裾を手で押さえて、彼女は手にしたハンカチを振って見せた。
その動作に、ひらひら、と白い桜が落ちてくる。

「君の?」
「違います。落し物です。誰かが探しているかもしれないので、職員室に届に行こうかと」
「・・・・エライね」
「どいてください、降りられないんです」
「降りられないなら手を貸そうか?」
「あんたが邪魔で降りれないって言ってんだよ、どけ!!」

突然怒りを露にして、中野さんが怒鳴った。
彼女の剣幕に、僕は素直に立ち上がって、桜の根元まで移動する。
それを確認して、中野さんはいきなり枝から飛び降りた。

とん、と簡単に、僕の身長よりもずっと高い位置から飛び降りて、地面に着地する。
長い彼女の髪が、鼻先をくすぐった。

「運動神経、良いんだね」
「お邪魔しました。後は好きなだけへこんでてください」

さっきの剣幕が嘘だったかのように、にっこりと作り笑いを浮かべて、中野さんが一礼する。
顔を上げたときの、鋭い視線が、僕の奥のほうに突き刺さった。

「・・・・・怒ってるの?」
「まさか」

睨みつけてくる両目とは裏腹に、にっこりと口元だけで笑う。
怒る顔よりよっぽど、迫力がある。

「じゃあ何で、睨むの」
「むかついたからです。日比谷会長の、彼女の言葉に」
「それは・・・・俺に言われても」
「こんな人だとは思わなかった、とか。私も言われた事あるんです。他人の理想の私なんて、私には関係ないのに」

春の穏やかな空気の中に、ちらちらと花びらが舞い落ちる。
彼女の走り去った桜並木を眺めながら言った、中野さんの言葉が、僕の奥のほうに、響いた。

「失礼します」

短く言ってくるりと向きを変えた中野さんの長い髪から、白い桜の花びらが滑り落ちる。

ハラハラと地面に落ちたその花びらを目で追いながら、さっきまで僕を睨みつけていた、黒い両目を思う。
真っ直ぐで、力強い、その視線を想う。

 


力強い、視線。
真っ直ぐに、こちらを睨みつける。
凛とした、澄んだ黒。

 

 


その日、彼女の黒い両目が、声が、僕の奥のほうに、焼きついた。

 

 


<了>